【「かぐや」の成果 ~ お知らせ 2016.4月 】





【「かぐや」が取得した月のスペクトルデータを利用したセンサ較正手法の開発】


    本内容は、2016年2月11日付けで米科学雑誌「Planetary and Space Science」に掲載された論文「Development of an Application Scheme for the SELENE/SP Lunar Reflectance Model for Radiometric Calibration of Hyperspectral and Multispectral Sensors (Toru Kouyama et al.)」に関するものです。


    宇宙空間に送り込まれた地球観測衛星や月惑星探査機等に搭載されたセンサは、どんなに高性能な物であっても少しずつ劣化していきます。センサの状態を正しく把握し、適した補正を行うことは、そのセンサによって取得されたデータを利用するために必要不可欠です。この作業を「較正」といい、様々な手法で較正が行われています。これらの手法の一つとして、殆ど不変と思われる月表面のスペクトル情報(分光反射特性)を利用して地球観測衛星や惑星探査機のセンサの較正をすることを「月較正」と言います。今回の研究により、かぐや搭載スペクトルプロファイラーのデータを利用して新たに作成された月面の高波長分解能分光反射特性モデルを利用した月較正手法が開発されました。


    この新しい分光反射特性モデルは、高い空間分解能(0.5度メッシュ)かつ高い波長分解能(6-8nm)を有しており、かつ、月面の地形や観測時の光の入射角・反射角等の情報も考慮されているため、宇宙空間での面的な月の放射輝度をとても良く表すことができるものになっています。
    地球観測衛星Terraに搭載されているASTERセンサによる月の観測を、この分光反射特性モデルを利用してシミュレートした結果(図1右図)と、実際に月をASTERセンサによって観測した結果(図1左図)を比較してみたところ、両者の値は0.99という非常に高い相関を示しました。またASTERセンサの観測波長帯における輝度の調査から、シミュレーション値と観測値で系統的な違いが確認されています。これは宇宙空間でのセンサ感度変化を捉えられたことを示唆しています。また1画素毎の輝度比の調査から、そのばらつきが全体の平均からわずか5%以内に収まっており(図2)、画素レベルにおいても高い精度で感度評価が可能であるものと考えられます。これらの結果は、構築された月のスペクトルモデルが月較正にとって非常に有効であることを示しています。また、先行研究による分光反射特性モデル(米国のROLOモデル)と本研究成果の比較からそれぞれの月モデルが持つ特性の理解をより深める重要性が確認され、今後の探査によるモデルの改良の可能性についても議論されました。


    本研究によって公開された「かぐや」データによる月表面の分光反射特性モデルとこれを用いた月較正手法は、月科学だけではなく、地球観測衛星等に搭載されるセンサの較正にとって非常に有用です。現在/将来のリモートセンシングによる地球の観測(森林監視や環境監視、資源探査等)が、本研究成果の利用によりさらに正確になることが期待されます。


図1(左)ASTERセンサによって観測された月の画像(2003.4.14観測)、(右)シミュレーションによる月の画像





図2 ASTERセンサによる観測値(縦軸)とシミュレーション値(横軸)の比較



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