<第六回>
宇宙航空研究開発機構 SELENEプロジェクトチーム
主任開発員 前島 弘則

地球から約38万km彼方の月を周回している「かぐや」に対して指令(コマンド)を送ったり、「かぐや」の動作状態(テレメトリ)や観測データを地上に伝送したりするのに、電波を使っています。電波は光の速度(秒速30万km)で進むので、送信したコマンドが「かぐや」に届くまで、「かぐや」のテレメトリが地上に届くまでにそれぞれ約1.3秒かかります。(月の光も地球に届くまで同じだけかかるので、わたしたちが見ている月は、実は約1.3秒前の姿です。)
また、電波の強さは、距離の二乗に反比例して減衰します。微弱な電波を集めるため、「かぐや」との通信には、長野県佐久市にある臼田宇宙空間観測所の直径64mのアンテナなどを使っています。
一方、衛星側のアンテナは、このページの上のほうにある「かぐや」の絵に描かれているとおり、衛星構体が邪魔にならないようブームの先端に取り付けられています。絵では小さく見えますが、実際には人の背丈ほど(1.6m)の直径があります。搭載している計算機で時々刻々地球の方向を計算し、アンテナを地球に向けています。

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今回のSELENEの人々は、通信系の説明から始めてみました。2004年から「かぐや」の通信系を担当している前島です。
思い起こせば、「かぐや」の通信系、開発段階では苦労が絶えませんでした。月周回軌道の厳しい熱環境(日なたで+100℃、日かげで-100℃)に耐えることを確認する熱真空試験などで思いもよらない不具合が発生し、また、もうすぐ開発完了というときにアンテナを駆動するためのプログラムにバグが見つかり、さらには、国内外の衛星との周波数干渉調整に奔走し。。。
しかし、多くの人と協力してこれらの難題をすべて解決することができました。打ち上げ後、搭載カメラで撮影した、月をバックにしたアンテナの画像が管制室のモニタに現れたときには、「本当に月まで行ったんだ」と猛烈に感動しました。

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今この瞬間も、「かぐや」の通信系は、地球と月との間を電波でつなぎ、月の起源を解明するための「かぐや」の観測を支えています。

月を背景にした「かぐや」搭載アンテナ
月を背景にした「かぐや」搭載アンテナ

2008年2月